「人生の主人公は私」。育児とキャリアにしなやかに向き合い、たどり着いた「間借り本屋」の道
ママになっても「自分自身も大切にしてほしい」――
そんな想いを掲げるネオママイズムが、さまざまなママの姿をお届けするneomamaismインタビューブログ。
Vol.21となる今回は、都内を中心に「間借り本屋」を展開する櫻井朝子さんがゲストです。
WEBメディア編集長とフリーライターの経験から得た気づきを活かし、2023年に間借り本屋「KAZENONE BOOK」を立ち上げた櫻井さん。母親として育児や家事に向き合いながら、自身の心にもしっかりと耳を傾け、「好き」を仕事に結びつけています。
「自分がどうなりたいか」を軸に、進む道を選択し続ける櫻井さんの姿勢からは、女性としての幸せを追求するヒントを得られるはず。櫻井さんのこれまでの歩みとともに、キャリアと育児の向き合い方を伺いました。
知人からの一言がきっかけとなり、間借り本屋「KAZENONE BOOK」をスタート!
――まずはこれまでのキャリアについて教えてください。
私が新卒で入社したのは、住まい探しをサポートするためのメディアを企画・運営している株式会社CHINTAIでした。営業部と企画部を経験し、WEBメディアの運営などを学ぶ中で、「『街』を知ることが、『自分らしい暮らし』につながる」と考えるようになりました。
その思いから「街を紹介できるサービスを作りたい」と提案し、新メディア「haletto(ハレット)」の立ち上げが実現。その後の6年間は編集長を担い、さまざまな角度から街やスポットを紹介し、地域に根ざしたイベントを企画したり、街の暮らしを体感できるような宿泊施設を作ったりもしました。
――情報発信に留まらず、ユーザーとのコミュニケーションも大切にされたのですね。その後はフリーランスとして活動を始めたそうですが…?
32歳のときに退職し、それまでの取材や執筆経験を活かしてライターとしての活動をスタートさせました。でも、いまいちしっくりこなくて…。元々、「目立ちたがり屋」の性格の私。「自分が主人公」になれないと、満足感が得られなかったんだと思います(笑)。
当時の仕事は、名前を出さずに書く案件が多く、かといって、自分の名前を出して執筆活動をするほど技術があったわけでもなく…。しばらくは、もどかしい日々でした。
――「本屋」を意識し始めたのはいつ頃でしたか?また、きっかけは何だったのでしょうか。
「本屋になろう」と考えたのは、娘を出産した後のことです。以前からお付き合いしていた彼と33歳のときに結婚し、36歳で母になりましたが、その頃は明確に「本屋」を目指していたわけではなかったんです。「趣味が読書」だったことから、なんとなく「いつか本に携わる仕事がしたいな」と考えていたくらいでした。
産後は、Instagramでおすすめの書籍を紹介したり、本屋の運営を学ぶ講座を受講したり、地元のイベントで小さく出店してみるなど、本に関わる活動を細々と展開。そのうちに、ご近所さんから「店の場所を貸すから、何かやってみない?」と声をかけてもらったんです。
それが、間借り本屋「KAZENONE BOOK」の最初の一歩となりました。2024年3月〜5月の期間限定で営業しましたが、その2カ月間で得たご縁から、谷中にある最小文化複合施設「HAGISO」での出店にも発展。その後も都内を中心に活動し、同年9月には、初めてのブックイベント「尾久、はじまりの本市」も主催しました。
――ご近所さんの一言から、一気に発展したのですね…!チャンスを掴み、行動に移す櫻井さんのパワーもすごい!
以前から、地域での交流を深めてきたことが、チャンスにつながったんだと感じています。私は、2018年から東京の田端で暮らしているのですが、この町に移り住んで以来、気になるお店があったら店主さんに話しかけてみたり、ワークショップに参加して顔見知りになったり、さまざまな形で人とつながってきました。きっと、「交流の種まき」があったからこそ、「KAZENONE BOOK」がスタートできたんだと思います。
――現在の活動は、櫻井さんにフィットしているように感じていますか?
そうですね。「天職だな」と感じるほど、今が楽しくて、とても幸せです。夫には、「天職なんてそんなに簡単に見つからないでしょ」なんて言われますけどね(笑)。「KAZENONE BOOK」の副題を、「ちょっとおせっかいな間借り本屋」としているのですが、これは「コミュニケーションを通して本をおすすめしたい」という思いから。人と本との出会いを、私らしくつないでいきたいと思っています。
不妊治療を経て第一子を妊娠。『古今和歌集』を参考に名付けを検討
――妊娠と出産のエピソードについて伺いたいと思います。35歳の時に妊娠、36歳で出産されました。不妊治療を選択しての妊娠だったそうですね。
結婚して2年経っても妊娠に至らなかったため、35歳のときに不妊治療をスタートしました。タイミング法と人工授精も試みましたが、なかなか結果が出ないことに焦りや不安を感じ、「可能性が高い方法にしよう」と体外受精にステップアップ。1回目の施術で授かることができました。
――妊娠期間はどのように過ごしましたか?
つわりなどのマイナートラブルはほとんどなく、いつも通り過ごしました。お酒が大好きだったので、飲みに出掛けられなくなったのはちょっと寂しかったですね。
それから、子どもの名前を考えるのが、本当に楽しくて。「自然にまつわる文字が入った名前にしたいな」と考えて、図書館で古今和歌集を借りてきて、名付けを考えていました。ある日、雷が落ちてきたように閃いて「この名前に決めた!」と夫に伝えたんです。
夫も名前を考えていたようで、候補をメモしていたようですが、私の「決めたら動かない」性格を知っていたので受け入れてくれました(笑)。
――『古今和歌集』まで読み込むなんて、読書好きの櫻井さんらしいです。妊娠期間にやっていて良かったことはありますか?
妊婦検診のときに、病院からもらうエコー写真を日記に貼って、そのとき感じたことを記録していました。夫から娘へのメッセージが書かれたページもあります。娘が大きくなったら渡してあげたいですね。
――娘さんへの素敵なプレゼントになりそうですね。出産への不安などはありましたか?
逆子だったため、帝王切開での計画分娩でした。私は痛みにとても弱く、陣痛の痛みに怯えていたので、帝王切開と決まって一安心。しかし、帝王切開後の傷の痛みに耐えることに…。入院中は母子同室だったので、手術の後に助産師さんから「赤ちゃん連れてきますね」と言われた時は、「今はやめて〜!」と思った程でした(笑)。
「子育ては予定通りに行かないもの」と認めたら、気持ちが楽になった
――産後の育児はいかがでしたか?
産後1カ月は、母が手伝いに来てくれたので、とても助かりました。とはいえ、娘は手がかからない方で、3時間に1回起きて、ミルクを飲むとすぐ寝てくれたので、ルーティーンを作りやすく「想像していたよりも楽だな」と感じました。
――1人目の育児で、「楽だ」と感じるとは驚きです…!
でも、2歳になってからがものすごく大変!イヤイヤ期でご飯も食べない、公園からは帰らない、保育園に登園するのも一苦労。ことごとく駄々をこねる娘の姿に、私もイライラしてしまい、態度や言葉に出てしまって、夫から「その言い方はないんじゃないか」と指摘されたこともありました。
子どもに対してイライラしても仕方がないって頭でわかっていても、毎日子どもと一緒にいると、できないときもあるんです。その時の不安定な気持ちを、夫に理解してもらえずに「ひとりぼっちだな」と感じました。
――予定通りに行かないと、焦りや不安を感じますよね。当時の孤独感はどのように解消されましたか?
夫と保育士さんが、育児の大変さを共感してくれたことで、孤独感も解消し、子どもとの向き合い方も見直すことができました。
ある日、娘がスムーズに保育園に行くことができず、予定より遅れて保育園に到着したときに、「遅れてすみません」と保育士さんに謝りました。すると、「謝らなくていいのよ。みんな同じよ」と言ってもらえて…。育児の大変さを理解してくれて、共感してくれたことが嬉しくて、涙があふれてしまいました。
このことがきっかけで、「私は共感がほしかったんだ」と気付くことができ、夫ともじっくり話し合うことができました。
――その後、心境に変化はありましたか?
夫と話をする中で、私自身、「子どもをコントロールしようとしていた」ことに気がつきました。娘に対してイライラしていた原因は、「何時までにこれをしたい」などの予定を乱されていたから。
割り切って、「子育ては予定通りにいかないもの」と認めたら、気持ちが楽になり、イライラせずに、子どものタイミングを待つ余裕が生まれるようになりました。この経験が、「パートナーとの対話を諦めない」ということの大切さにも、気づかせてくれたように感じています。
子育て中も我慢しすぎず、自分のやりたいことを楽しむ
――現在は、育児と仕事のバランスをどのように取っていますか?
夫も、私と同じ自営業。飲食店とコンビニの2店舗を経営しているため、平日の家事と育児は基本的に私の担当です。本屋の出店がある日は、夫や、近くに住んでいる夫の母に娘を見てもらっています。
今は、「もっと本屋の仕事に力を入れたい」という思いと、「娘との時間を大切にしたい」という思いが両立している感じ。「育児」と「仕事」、頭を切り替えながら過ごす日々ですね。
――休日はどのように過ごしていますか?
休日は私のインプットのために時間を使うようにしていて、子連れで行ける美術館や飲食店に娘と一緒に出かけることが多いです。「まだ娘も小さいから」と、私に付き合わせることに躊躇する気持ちもありますが、「私が好きなことと、娘が興味を持てること」の掛け合わせを意識してスポットを探しています。
また、「月に一回は、一人で自由に過ごせる日を作る」ことを夫との決め事にしています。お互いに自分時間を取れる日を作って、リフレッシュしながら、日々の生活に向き合っています。
――家事や育児から離れる時間も必要ですよね。今後はどのようなことにチャレンジしていきたいと考えていますか?
今年1月、初めての小冊子「ZINE」制作することができました。今後は、出版社を立ち上げることや、免許を取得して車で本の移動販売をすることも検討中。育児中も、やりたいことを我慢しすぎずに、楽しんでいきたいですね。
櫻井朝子様のオススメ書籍
(1)『レストランふろ』(小学館)/麻生知子 著
「KAZENONE BOOK」のベストセラーです。文章が少なめなので、絵を眺めて楽しめます。食べ物の描写がとてもユニーク。夜中に読むとお腹が空いてくるかもしれません(笑)。
(2)『子どもへのまなざし』(福音館)/佐々木 正美 著
児童精神科医の著者が書いた育児書です。この本と出会って、「子どもがやりたいことを叶えてあげるくらいの気持ちでいい」と、おおらかな気持ちで育児に向き合えるようになりました。
櫻井朝子様の役に立ったオススメグッズ
THE NORTH FACE「シェルブランケット」
https://www.goldwin.co.jp/ap/item/i/m/NNB72301
抱っこ紐やベビーカーに取り付けられるので、寒い時期のおでかけに重宝しました。今は自転車に取り付けて、保育園の送迎時に活躍しています。
授乳ライト
https://item.rakuten.co.jp/icemart/nq-cea-2001/
昼白色・電球色を切り替えたり、長押しで調光できたりする授乳ライト。授乳時期が終わった今も枕元に置いて、絵本を読むときの読書灯に活用しています。とにかく軽いので、実家に帰るときの必需品。いつもの明かりで娘も安心して入眠できるようです。
TERMOS「まほうびんのベビーストローマグ」
https://www.shopthermos.jp/shop/g/g200066570710/
保冷ができるストローマグです。ストローが使える月齢になったときに愛用していました。
プロフィール
櫻井朝子
「KAZENONE BOOK」店主
1986年生まれ、宮城県仙台市出身。現在は東京都在住。WEBメディア編集長を経て独立し、WEBライターとして活動する。2019年に結婚、不妊治療を経て2022年に第一子を出産。2024年に間借り本屋「KAZENONE BOOK」を設立する。初の著書となるZINE『夜明け前、一番星を見つけて』も販売中。