知識があったから落ち着いていられた。助産師で性教育YouTuberが自身の出産から得た気づき
ママになっても「自分自身も大切にしてほしい」――
そんな想いを掲げるネオママイズムが、さまざまなママの姿をお届けするneomamaismインタビューブログ。
Vol.22となる今回は、助産師としての経験から得た気づきを発信する、性教育YouTuberのシオリーヌさんがゲストです。
これまでたくさんのお産と、母親や赤ちゃんのケアに携わってきたシオリーヌさんは、2022年に第一子を出産。自身の出産を通して、改めて「知識があるのは心強いこと」だと実感したそうです。
そんなシオリーヌさんに、出産を通して得た気づきや、キャリアと育児のバランス、パートナーとの良好な関係づくりのために意識していることなどを伺いました。
「早くわかって良かった…」。ブライダルチェクで婦人科疾患が発覚
(YouTubeより抜粋)
――まずは、これまでのご経歴を教えてください。
神奈川県立保健福祉大学助産師課程を卒業後、総合病院の産婦人科病棟に就職しました。助産師として勤務して約3年が経った頃、「性に関する知識の必要性」を感じ、休日を利用して講演活動などをスタート。その後、YouTubeチャンネルを開設し、「性の話をもっと気軽にオープンに」をモットーに、さまざまな動画を配信しています。
――シオリーヌさんの産前産後の動画も共感性が高く、たくさんの気づきを得ることができます。妊活に取り組むにあたり、ブライダルチェックを受けていましたが、その理由について教えてください。
妊活を意識し始めたタイミングで、自分たちの体の「妊孕性」…つまり、「妊娠するために問題ない体かどうか」を確認するために受診しました。
以前から、「30歳くらいで子どもを産みたい」というライフプランを立てていたので、29歳のときにブライダルチェックを受けることに。しかし、検査を受けたところ、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が発覚。スムーズに妊娠するためには、治療が必要だということがわかったんです。
――診断を受けたとき、どのような心境でしたか?
少し戸惑いましたが、「早くわかって良かったな」という気持ちでした。ブライダルチェックを受けずに妊活を始めていたら、「なかなか妊娠しない」と悩んでいたかもしれません。最初から、課題を把握した状態で妊活を始められたので、最短コースで進めることができて良かったと思っています。その後の治療も、とてもスムーズに進みました。
(YouTubeより抜粋)
「マタニティライフ」に違和感を感じつつ、出産日を迎え…
――不妊治療を経て、第一子を妊娠されました。妊娠がわかった時のお気持ちは?
実は、1回目の人工授精を受けた後、風邪のような症状があったので「妊娠した気がする」と感じていて。検査薬で調べてみたら陽性反応が出たので、「本当に妊娠していた」と確信したんです。
――パートナーに陽性反応が出たことを伝える「ドッキリ企画動画」も配信されていましたね。
夫の方が驚いていた感じでしたね(笑)。
(YouTubeより抜粋)
――その後の妊娠期間はどのように過ごされましたか?
いつも通り過ごしました。たくさんの方に「マタニティライフを楽しんでね」と言われましたが、「マタニティライフ」という言葉が、私にはイマイチしっくりこなくて。「私は私のままだけどな」という感覚が強く、妊婦としての自覚がないまま出産日まで過ごしたんです。
大きくなっていくお腹を見ても、感慨深さを得られるわけでもなく「大きな私のお腹」という感じ(笑)。出産後、赤ちゃんと対面して初めて「本当に入っていたんだ」と実感することができました。
(Instagramより引用)
――助産師として、妊婦さんに接する機会が多かったからこそ、新鮮さを感じにくかったのでしょうか。
そうかもしれません。お腹の赤ちゃんの心音を聞いた時も「いるんだな」という確認の気持ちが強く、夫の方が涙を流して感動していました。
分娩の「見通し」を持つことで恐怖を払拭できる。出産動画の撮影に向けた思い
――出産時の様子も動画で配信されていました。当初から撮影することは決めていたのでしょうか?
出産動画の撮影は当初から考えていて、バースプランに入れていました。女性にとっての「出産の恐怖」って、2種類あると思うんです。一つは、「痛み」への恐怖、もう一つは、「見通しが立たない」という恐怖です。「陣痛中、どうやって過ごせばいいの?」「この先どんなふうに進むの?」という疑問を解消することで、恐怖心を和らげられるのではと考えて、出産までの様子をレポートしようと考えたんです。
――動画では「今の痛みレベルは3くらい」など、具体的なコメントがあり、出産の進み具合や、その時の痛みの程度をリアルに理解することができました。
私が目指していたのは、「出産の様子を見せる」だけではなく、「陣痛中や分娩時の考えと行動を伝える動画」でした。「このときはこう感じていた」「このタイミングでご飯を食べられた」など、リアルな状況を伝えることで、出産を控えた方が、見通しが持てるようになれたらと考えていました。
私の場合、助産師としての経験から「自分のお産が順調」ということが理解できたので、余裕を持ってお産に臨めたと感じています。
(YouTubeより抜粋)
――助産師としての経験が、自身の分娩でも生かされたのですね。
「知識があるって強いな」と改めて感じましたね。「お尻が押されるような感覚になってきたら、赤ちゃんが降りてきているサイン」など、具体的に感覚と状況を理解しておくと、落ち着いていられると思います。
自治体が開催している母親学級では、一部の情報しか得ることができません。分娩も育児も「知っていること」が大きな強みになるので、出産に不安がある妊婦さんは積極的に情報を集めてみてほしいです。
――バースプランとして、病院にリクエストしていたことはありますか?
「動画を撮影すること」以外にも、「胎盤と臍の緒を触ること」などをバースプランとして提出していました。
――「胎盤に触る」ことも、希望すれば可能なのですね。
例えば、「陣痛中にたくさん褒めてほしい」など。私が以前担当した妊婦さんからは、「叱咤激励してほしい」と言われたこともありました(笑)。理想の出産を迎えるために、バースプランでは何ができるのかを、しっかり調べることも大切だなと感じています。
産後うつになりかけて、「休む時間」の確保に努めるように
(Instagramより引用)
――妊娠中は「妊婦」の自覚がなかったとのことでしたが、出産後、心境の変化はありましたか?
産まれてからしばらく経っても、「母親の自覚」は芽生えませんでした。授乳しているときも、まるでロールプレイをしている感覚で「お母さんぶっている」という気持ち。母性というよりも「この命を守らねば」という使命感に満たされていたように感じています。
「私ってお母さんなんだな」と実感し始めたのは、実は最近のことです。保育園の先生から「○○ちゃんママ」と呼ばれたり、言葉を話し始めた子どもから、毎日「お母さん」と呼ばれることで、「母親」になれたように感じています。
――「産後うつになりかけた」という動画も配信されていましたね。
仕事に復帰して、以前のペースに戻そうとしていた産後半年くらいの頃、「産後うつ寸前だ」と感じました。子どもの夜泣きによる寝不足と、始まったばかりの離乳食、会社設立のための準備など、諸々が重なって疲労が蓄積していった時期でした。夫婦ともにピリピリしていて、これはヤバいなと感じました。
さらに以前は、月に一回は自治体の産後ケアサービスや、産後ケアホテルに宿泊するなど、息抜きのタイミングを作っていたのですが、産後半年くらいになると、産後ケアの対象外になってしまい……。「ここから先、一日も休むことができない」と感じたことも、疲労感に直結したように思います。
――どのように気持ちを立て直したのですか?
友人にベビーシッターのアルバイトを依頼して、時間を気にせずに寝たり、ゆっくりお風呂に入る日を作ったことで、回復することができました。
産後は、これまでの日常のすべてが「非日常」になってしまいます。それこそ、「一人でコンビニに行く」こともままならないほどです。産後うつになりかけてからは、思い切り気を抜いて、休める時間を作ろうと意識するようになりました。
「40代から本気で働く!」子育てに向き合う中、キャリアへの意識にも変化が
(HPより引用)
[NPO法人 コハグ https://cohug.net/volunteer/ ]
――産前と産後で、キャリアへの意識に変化はありましたか?
産後すぐは「産前と同じペースで働きたい」と考えていましたが、育児をするうちに「考えを変えなければ」と思うようになりました。子どもは突然熱を出すことが頻繁にあり、場合によっては1週間身動き取れなくなることも。次第に、「家庭環境と家族の状況が大きく変わったのだから、働き方も変えるべき」と考えを切り替えられるようになっていきました。
その後は、仕事をセーブしつつ、周りの人に仕事を頼るように。以前は「人と働くこと」に苦手意識を持っていたのですが、産後、「一人で進められないことも、チームを作れば進められる」と気づき、チームメンバーを募って産後ケア事業を運営するためのNPO法人を立ち上げました。
チームを作ったことで、一緒に働くことの心強さや、多角的な視点を持つことの大切さにも気づくことができたと感じています。
――働き方にも変化が生まれたのですね。仕事をセーブすることに、ストレスは感じませんでしたか?
育児を理由に仕事をセーブすることに対して、今はネガティブに捉えていません。「諦めた」というのではなく、「考えをシフトできた」という感じ。私は「一生働いていたい」と考えていて、もしかしたら80歳になっても仕事をしているかもしれません。そう考えると、40歳から本気で働き始めたとしても、あと40年は仕事ができるわけです。それならば、子育てに手がかかる10年くらい、子どもと密に関わるのもいいかなと思えるようになりました。
「30代はゆっくりでもいいから止まらない」がモットー。「40代から本気で仕事する」と考えています。
年に一回「家族運営会議」を開催。「家族」を続けるためには努力も必要
(Instagramより引用)
――動画では、パートナーのつくしさんとの対話からも、パートナーシップの重要性を感じさせてくれます。より良い家族関係を築くために、意識していることはありますか?
「話し合うこと」を大切にしています。わが家では、年に一回、結婚記念日に「家族運営会議」を開催しています。3時間くらいかけて、健康や子育て、経済、仕事など、さまざまなテーマで評価をつけて話し合うんです。
今の家庭の状況について、きちんと振り返る機会を作ることは、私たちにとって大切なこと。「今どんな課題があって、それに対してどのように考えているのか」を深く話し合うことで、お互いの理解を深めています。
――互いの意見を押し付けるのではなく、話し合ってちょうど良いポイントを見つけているということですね。
そうですね。結婚したばかりの頃は「どちらの考えが正しい」とか、「どちらかに合わせなければいけない」という感覚でした。でも最近は、「できないことはできない」と認められるようになってきて。
例えば、夫は何度注意しても「ドアを開けっぱなしにする」癖があるのですが、ある日、「なぜ閉められないのか」を改めて聞いてみたところ、「気をつけようとはしているが、他のことをしているとドアが視界に入らなくなってしまう」との回答。それまでは「ドアは閉めるのが当たり前」と考えていましたが、「気付けないのなら仕方ないか」という気持ちを持てるようになりました。
――理解が深まることで、パートナーに感じているイライラも払拭できそうですね。
「○○するのが当然」などの先入観を捨てることって、大切だなと感じています。また、私も夫も両親が離婚していて、私自身も離婚を経験しています。「家族とは頑張らなければ継続できない」ということを知っているからこそ、良い関係性で家族を続けるための努力が必要だと考えています。
――今後やってみたいことを教えてください。
2023年にNPO法人を立ち上げて、産後ケアの取り組みを始めました。この活動を軌道に乗せることが今の大きな目標です。「ほんの一日でも一人の時間を作りたい」というお母さんのために、産後ケアの選択肢の一つになれるよう、活動を広げていきたいと思っています。
それから今、大学院で公衆衛生学について学んでいます。進学の理由は、研究データを理解し、きちんと根拠を持って情報を発信していきたいと考えたから。大学院での学びを、今後のキャリアにも繋げていけたらと考えています。
シオリーヌ様の役に立ったオススメグッズ
ピジョン/電動搾乳機
https://shop.pigeon.co.jp/collections/search108/products/1026453
コンパクトなサイズ感なのに、電動で搾乳できるという頼もしい存在。夜中の3時に起きて搾乳し、搾乳した母乳を夫に渡して再び寝るというのが、毎晩のルーティーンでした。この搾乳機のおかげで、私の睡眠時間が長く確保できていたと感じています。
沖縄子育て良品/布製スリング
https://room.rakuten.co.jp/shiorinu/1700172324514115
新生児期から使っていて、子どもをスリングに入れて、パソコン作業をしていました。スリングで抱っこすると、すぐに寝てくれていたので重宝しました。かさ張らないので持ち運びにも便利です。
プロフィール
シオリーヌ
助産師/性教育YouTuber
1991年生まれ。総合病院産婦人科で助産師として勤務した後、精神科病院児童思春期病棟に看護師として入職し、若年層の心理的ケアを学ぶ。2017年より、講演活動などで性教育に関する情報発信を始め、2019年にYouTubeチャンネルを開設。性教育YouTuberとして、性を学べる動画を配信する。不妊治療を経て、2022年に第一子を出産。その後、株式会社Rineを設立し、性教育の発信と産後ケアサービス事業に取り組む。2023年より、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科に進学。